御曹司と愛され蜜月ライフ


◇ ◇ ◇


晴れ渡る秋空が気持ちのいい日曜日。時刻は午前10時55分。

私はひとつ深呼吸をしてから、203号室のドアチャイムを押した。

ほどなくして室内から足音が近付き、内側からドアが開かれる。



「おはよう、卯月。感心だな、5分前行動」

「おはようございます。これでも社の顔を任される受付嬢ですので」



わざとツンとした様子で答えると、ドアをおさえたままだった課長がふっと口元を緩ませた。

まさかこのタイミングで笑うなんて思ってなかったから、不意打ちを食らった私の心臓が大きくはねる。

あ、朝っぱらから、眩しいモノ見せないでいただきたいんですけど……!? まだ私エンジンかかってなくて守備甘いんで、ちょっとの刺激で大ダメージですし……っ!!



「俺も準備はできてる。行くか」



言いながら外に出て来た課長がドアに鍵をかける。その背中を見上げながら、私はこっそりため息をついた。


……まさかほんとに、近衛課長と出かけることになるとは……もしコノエ化成の社員に見られでもしたら、大変なことになりそうだ。

まさかそうそう遭遇はしないだろうけど、念のため服装は普段の通勤服とは違う系統にしてみた。いっそキャップかぶってサングラスとマスクでもつけるか……いやそれじゃただの変質者だしな……。


うつむいて思考に没頭していたら、とっくに鍵をかけ終えた課長がこちらを見下ろしていることにすぐ気付けなかった。

気配を感じた私がハッと顔を上げると、そこにはじっとこちらを見つめる近衛課長がいて。



「え、な、なんですか」

「いや。ちょっといつもと雰囲気違うけど、そういうのも似合うな」

「……!」



あっさり放たれる言葉に、ぼぼっと頬が熱くなる。

私が通勤服としてよく着ているのは、シンプルなオフィスカジュアルといったものばかり。けれど今日は若干の変装願望もあって、ほとんど箪笥の肥やしになっていたガーリーな小花柄ワンピースを引っぱり出しグレーのニットカーデを合わせている。

髪の毛もふわふわに巻いて前髪をポンパドールにし、メイクは仕事用のものよりずっと時間をかけた甘めのタレ目風メイク。


……そうして完成した自分を全身鏡に映したとき、私はひそかに愕然とした。

なんか今の私……大好きなカレとの初デートに気合いを入れて望むゆるふわ女子みたいじゃない??!って。
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