御曹司と愛され蜜月ライフ
なんとも形容しがたい一抹の不安を胸に抱きつつも、一応近衛課長の後をついていくことはやめない。

アパートのすぐ前にある横断歩道を歩いているとき、ふと課長が思い出したように口を開いた。



「卯月、ゆうべ誰かと電話してたか?」



突然の問いに、思わず目をまたたかせる。

私は素直にうなずいた。



「ええ、まあ。してましたけど」

「彼氏か?」

「へっ、ち、違います、彼氏なんていません……! 実家の母親です!」



今度はぶんぶんと首を横に振る。ていうか課長、今までずっと私のこと“彼氏いるくせにあっさり他の男の部屋に上がるヤツ”だと思ってたんだろうか。

……いや、彼氏いるとかいないとか関係なく、今の状況は普通じゃないって自分でも思うけど。



「……彼氏がいたら、課長とふたりでお出かけなんてしないですよ」



なんとなく、居心地悪くなりながらつぶやいた。

小さな声だったと思うのだけど、彼にはちゃんと届いたらしい。クッと課長がのどの奥で笑った。



「まあ、そうだな。卯月はそういうヤツだよな」



降ってきた予想外の言葉に、驚いて顔を上げた。

斜め後ろから課長へと視線を向ける。その口元は先ほど笑みをこぼした名残りか、ゆるく持ち上がったままだ。


まだ、今のような関わりを持つようになってからそう時間は経っていない。

それでも課長は時折、こんなふうに私の性格をちゃんと理解してくれているような発言をする。


……そして今、わかった。

私は近衛課長に自分のことを知ってもらえていることがわかるたび──うれしいと、感じてしまっていることに。
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