御曹司と愛され蜜月ライフ
「……卯月」

「……はい」



硬直する私の手の下でもごもごと課長がしゃべる。

私は彼の呼びかけに小さく返事をした。



「まさかとは思うがきみ、バージ」

「違いますしもしそうだとして普通そんなこと面と向かって訊きませんよね??!」

「なんだ」



『なんだ』ってなんだ……!と激しく自分の耳を疑いながら、今度こそ手を引っ込めた。

頬が熱い。でもこれは断じて照れているわけではなく、課長に対する怒りだか驚愕で頭が沸騰しているためだ、絶対!


課長はやはり表情を変えず、顔を赤くする私を見下ろしている。



「ああ、これは良くないな。もしきみが総務部長へ俺にセクハラされたと進言したら、さすがに会社にいられなくなる」

「そ、そうですよ! いくら権力あってもセクハラで訴えられたら終わりですよ……!」



近衛課長を訴えようだなんて考えほんとは1ミリも頭をかすめてなかったけど、彼の言葉に乗ってくちびるをとがらせる。

視界には、いつの間にか近所の貸し駐車場が見えて来ていた。きっとここに、課長の車を置いているのだろう。



「今の俺にたいした権力なんてないだろ。ただのサラリーマンで、単なる中間管理職だ」



こともなげに言い放つその様子に、小さな疑問を覚えた。

……でも、だって。近衛課長は前に──……。



「……あの、課長。前からちょっと気になってたんですけど」

「なんだ、改まって」

「課長がウチの隣りに引っ越してきた次の日の朝、出勤前の私をとっ捕まえて『もし俺がここに住んでいることを誰かに話そうものなら』……って、中途半端に言葉をためて凄んで来たじゃないですか」

「あー、あったなそんなことも」
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