御曹司と愛され蜜月ライフ
家に上がったとき以上に、緊張する。だってワンルームの部屋よりずっと狭くて、課長が近いんだもん。

私がシートベルトを装着したのを確認してから、近衛課長がエンジンをかけた。

ほどなくして車は動き出し、ウィンカーを出して道路へと合流する。



「──さっきの話の続きだけど。今さらもう、考えなくてもいいことじゃないか?」

「え?」



その言葉の意味をはかりかねて、私はつい聞き返した。

まっすぐ前を見据えて黒革のハンドルを操る課長がまた口を開く。



「俺の引っ越しのことをバラしたときは、の話。どうせ卯月は、バラす気なんてないんだろ?」



そう話す彼の口元には笑み。私のことなのにきっぱり断言するから、なんだかむずがゆいような、悔しいような気分になった。

たしかに私は、会社の誰かに近衛課長のことをバラそうなんて全然思っていない。けれどそれをあっさり本人に見抜かれて、なんだか癪だ。

ほとんど負け惜しみに近いその感情のまま、思わず悔しさが表情に出てしまう。



「……わかんないですよ? 明日には、気が変わって社長室を訪ねるかも」

「へぇ、それはこわいな。だがもしそうなったら、こっちだって黙ってないぞ」



そんなことを言いながらも、相変わらずそのくちびるは弧を描いている。

きっと私の強がりなんてハナからお見通しで、単に言葉遊びを楽しんでいるのだ。私だって負けじと言葉を返す。
< 60 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop