御曹司と愛され蜜月ライフ
いつの間にやら自分自身が夢中になって、代わる代わるいろんな香り見本を試してみる。

あ、これ純粋にせっけんぽくていい匂い。私も自分の分買っておこうかな。


ずらりと棚に並ぶ商品たちを真剣に吟味する私の右隣り、それまで黙っていた近衛課長が、真っ黒な怪しいパッケージの商品を片手にふと口を開いた。



「そういえば、卯月はどれを使ってるんだ?」

「え? あー、ウチはこれですね」



答えながら、左上にあった水色のボトルを指さす。



「結構これもいい匂いですよ。んーでも、この香り見本はないみたいですねぇ」

「ふーん」



つぶやいたかと思えば、課長がちらりとこちらに視線を向けて来た。

無言で目が合い、きょとんとする私。課長の長い手が持っていた商品を棚に戻したと思ったら、そこから、同じ左手が私の二の腕を掴んで。



「──、」



掴んだ手に引き寄せられたと同時に、首筋にくすぐったい感触。

その正体が近衛課長の意外とやわらかな黒髪だということに気付いた瞬間、火がついたように顔が熱くなった。



「えっ、な……っ」

「──ああ、そうだな」



こちらの動揺なんてまるで無視で、近衛課長がつぶやく。

私の肩口に正面から顔をうずめたまま、すん、と息を吸うのがわかった。



「なるほど。……たしかにいい匂いだ」



そう言う彼の方こそいつもの香水のいい香りがして、くらくらする。

動けない。課長に両方の腕を掴まれてるからだけじゃなく、もっと違う、雰囲気的なものに飲まれて。


不意に、私の左肩から顔を上げた近衛課長と目が合った。距離の近さと予想外な眼差しの強さに、どくんと心臓がはねる。

ふっと彼が口元を緩めたそのとき、私の鼓動の速さはたぶんピークに達していた。
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