御曹司と愛され蜜月ライフ
「こ、わ……かった。こわかった、です……っ」



この人が、私を助けてくれた。そう思ったら咳を切ったように、ボロボロ涙がこぼれ落ちてきた。

息を飲み、躊躇う気配がしたのは一瞬のこと。

すぐに課長の腕が私の身体を包んで、きつく抱きしめ返してくれる。

抱擁の強さとは裏腹にやさしく香るグリーンシトラスが、余計に私の涙腺を刺激した。



「ごめん。そうだよな、こわかったよな」

「う……っな、なんなんですか課長、なんで、こんなタイミング良く来てくれるんですか……っ」

「うん、よかった。卯月のこと、見つけられてよかった」



ポン、ポン。ゆったりとしたリズムで背中を叩く手のひらと頭上から降ってくるやわらかい声に、固まっていた心が次第にほどけていく。

そして急速にしぼんでいく恐怖心に対し、じわじわとふくらんでいくのは困ったことに羞恥心で。今さらながら、往来で職場の上司に抱きついてしまっているという状況がひどく恥ずかしくなって来た。

どくどくと波打つ鼓動は、不本意ながらぴったりくっついている目の前の人物にもしかして聞こえてしまっているんじゃないかなぁと少し心配になる。



「(──ああ、でも、)」



課長の腕の中はすごく心地よくて、いっそこのまま目を閉じて眠ってしまいたくなるほどだ。

頬を寄せた、意外とたくましい胸板。そこから伝わるぬくもりがじんわり自分の体温と溶け合って、それがどうしようもなく安心感を与えてくれる。


……あったかいな、課長の腕の中。

忙しない心臓の音も、まるごと包み込んでくれるみたいな。そんな圧倒的な包容力は、まるでふわふわの羽毛布団のようだ。

あったかい。こんなんじゃ私、触れてるところから溶けてしまいそう。

もうすぐ11月になろうっていう冷たい夜風なんて、気にならない。それくらいの、熱さだ。

……うん、ていうか、むしろ……なんか、異常に、熱くない?
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