御曹司と愛され蜜月ライフ
バッと、顔を上げる。勢いよく上を向いたからか、こちらを見下ろしていた近衛課長はきょとんと目をまたたかせていた。

失礼だとは思いつつ、今度はその勢いのまま課長の首筋に手のひらをあてた。



「って、課長あつっ! 熱いですよ、課長!」

「暑いか? 俺は寒い」

「課長コレ、絶対熱ありますって! ちょ、ちょっと、とりあえず離してください……!」



私が言うと、課長がしぶしぶといった様子で腕の力を緩めた。

とたんに頬を撫でた夜風の冷たさに、さっきまでのぬくもりが恋しくなったのは一瞬のこと。

頭の中の雑念はすぐに打ち消し、今度は背伸びで課長のひたいに手を伸ばす。



「やっぱり、熱い……課長、寒気がするのは熱のせいです。たぶん外にいるとか関係なく」



その絶妙なタイミングで、近衛課長がくしゃみをした。そういえば、ゆうべ咳もしてたっけ。



「あー……そうか。それは不覚だ」

「のん気に言ってる場合じゃないですよ! 早く家に帰──」



そこまで言って、ふと気付く。マイカー通勤の近衛課長は、どうして駅前をひとり歩いていたんだろう。



「課長、今日お車はどうされたんですか?」

「あー、今朝起きたら眩暈がしてたから、車の運転はやめて電車にしたんだ」

「重症じゃないですか……!」



自覚してしまったからか、急に辛くなったのか。見れば、課長の身体はなんだかもうふらふらだ。

私はあわてて歩道から乗り出し、通りすがりのタクシーをつかまえる。

自分よりずっと体格のいい課長を後部座席に押し込め、同じく隣りに乗り込んだ。

ドライバーに告げる行き先はもちろん、私たちのお城。ここからタクシーは距離的にちょっと躊躇うんだけど、緊急事態なんだから仕方ない。

走り出すタクシーの車内、隣りでだるそうにしている課長を気にしつつ、私は深く座席にもたれた。
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