御曹司と愛され蜜月ライフ
ハイツ・オペラに着いてまず、課長には早急な手洗いうがいと着替え、それから布団に直行することを強く命じた。

いくら上司とはいえ、相手は生活能力皆無のお坊っちゃん。下手に動き回られて病状を悪化させないためにも、無礼講の極端な指示を出しておく。

私は私で、自宅に帰るととりあえず手洗いうがいをしっかり行い、すぐに冷蔵庫の中や薬を置いている引き出しの中をチェック。課長の家にあるとは到底思えない、ひたいに貼る冷却シートや風邪薬、体温計などを持って隣りの部屋を訪ねる。



「悪いな……自分がこんなにヤワだったとは思わなかった」

「まあ、慣れないひとり暮らしプラス激務プラスこの寒さなので仕方ないですよ。これ、薬とかいろいろ持って来ました」



課長は玄関に鍵もかけず、しかめっ面で布団の中にいた。傍らにはメガネとタクシーで帰って来る途中寄ってもらったコンビニの袋が、おざなりに置いてある。

スポーツドリンクはもう自分で開けて飲んでいたらしい。袋に残っていたゼリーとプリンを冷蔵庫にしまってから、課長が寝ている布団の横に腰をおろした。



「ごはん食べられそうなら、何かおなかに入れてから薬を飲みましょう。おかゆとうどん、どっちがいいですか?」

「……おかゆ……」

「了解です」



うなずきながら、そのひたいにペタリと冷却シートを貼ってやる。

やっぱり課長、メガネないとちょっと若く見えるなあ……。本人が聞いたら渋い顔をされそうなことを考えつつ、意外と硬い髪質らしい前髪を軽く撫でた。

相変わらず、近衛課長の顔は険しいまま。



「不覚だ。こんな大事な時期に体調を崩すとは」

「課長は働きすぎですよ……むしろよく今日1日ぶっ倒れませんでしたね」

「ぶっ倒れはしなかったが、まわりに『顔色が悪すぎる』と言われて強制的に帰らされたんだ。そしたら、知らない男に引っぱられてる卯月を偶然見かけた」

「……なんかもうそれって、素直に私よろこんでいいものか微妙ですね」
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