溺愛伯爵さまが離してくれません!
けれど、彼は何かにつけては私の店へとやってくる。
店の商品を買い、「ありがとう」と笑みを零して帰る日が何日も続いた。

私はとても戸惑って・・・でも、とても嬉しくて。
ほんの数分のやり取りなのだけど、その時間が待ち遠しくていつもそわそわしていたと思う。

やがて、彼は私に求婚をする。
それはいつものやり取りをしていた時の事だった。

商品を渡そうとした時に、商品ごと手を掴まれる。
そして私を潤んだ瞳で見つめ、こう言った。

「私と結婚してもらえますか?」

と。

天にも昇る心地とはこの事を言うのだろう。
あまりにも嬉しくて意識が飛んでしまいそうになったけれど、すぐに不安が襲う。

何もないただの庶民である私と結婚などしても、お互い幸せになんてなれない。
きっと辛い思いをするだけだ、と。

だからその時は断った。
「貴方にはもっと相応しい方がいますよ」と。

その言葉を言うのがとても苦痛で仕方なかった。
私に彼と同じ身分さえあれば、少しでも教養さえあれば。
きっとこんな言葉を言わなくてもよかったと思ったから。

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