溺愛伯爵さまが離してくれません!
こうして、急遽休みを切り上げ屋敷へと戻る事になった私でした。
慌ただしく荷物を纏め、家族に別れを告げると、伯爵さまが乗って来た馬車へと乗り込みます。

私は伯爵さまの向かいへと座ろうとしました。
しかしその瞬間に腕を掴まれ、ぐいっと引き寄せられ伯爵さまの隣へと座らされました。

「君はここ。屋敷に着くまで少し寝たいんだよ。君の肩を貸して欲しい」

そう言って私へと寄りかかります。
何か言おうとしたところで、伯爵様はそのまま目を瞑ってしまいました。
そして馬車はゆっくりと動き出し、私は身体を動かすことが出来なくなってしまいます。

馬車の心地よい揺れに、伯爵さまは寝息を立てて気持ちよさそうに眠っておられました。
寄りかかって寝ているために、私の頬には伯爵さまの柔らかい髪が触れて。
私はいつまでたっても落ち着くことが出来ません。

神様は酷な事をされます。
こんなに近くにいるのに、これ以上の関係を望めないのに、それでも私を伯爵さまの傍に置こうとする。
結婚も出来ずに、私は年老い行くまでこうやって近くで、伯爵さまをただ、見守っていくしか出来ないのでしょうか。

これは罰?
好きでもない人と見合いをして結婚をしようとした、私への罰なのですか?

私は一体、どうしたらいいのでしょう。
どうしたら、この辛い気持ちから抜け出す事が出来るのでしょう。

「はく・・・しゃくさま・・・」

伯爵さまを起こさないよう、私は声を押し殺して泣き続けたのでした。


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