眩暈
その声が聞えても、一瞬誰かわからなかった。次の瞬間に私の名前が呼ばれるまでは、私は間違い電話だと信じて疑わなかった。
「ヨーコ?」
一瞬の沈黙の後、私はダミアンの名前を呼んでいた。何かよくないことが起こったのだとすぐに察したが、あくまで冷静に話しかけた。
「もうベルリンに戻って来ているの?」
彼はそれには答えなかった。
「落ち着いて聞いて。パニックにならないで」
電話を持つ手が震えていた。何かあったのだ。ルカに、何かあったのだ。ダミアンは深呼吸をした後に、静かに言った。
「ルカが、死んだ」
彼は、言った。その瞬間に、様々な瞬間が私の頭を巡った。最後に会った時、抱き合って眠った時、彼が眉毛をしかめた時、そして最初に会った時のこと。ダミアンはその後にいろいろと説明してくれたと思うけれど、私は何一つ思い出せない。いつの間にか電話は切れていた。私は煙草を吸おうと試みた。手が凍えるように冷たくて、火を点けることが出来なかった。そしてその時、やっと理解が出来た。私はルカを失った!涙がやっと出て来た。アンディが帰宅した時、私は子供みたいにただ泣いていて、彼は私をきつく抱き締めた。大丈夫だよと言って私を抱いてくれる彼の腕の中は、とても暖かかったことを覚えているけれど、一体何が大丈夫なのか、まったくわからなかった。ルカが死んだって言うのに。何が大丈夫なの!?私は叫んでみたが、そんなことアンディに言ったところでどうしようもなかった。彼はとても困惑した表情で私を見ていた。ごめんね。私はアンディに言った。ごめんね、ごめんね・・・。何度も何度も。ルカ、ごめんね。私は何を謝っているのかよくわからなかったけれど、謝りたかった。思い出すのは彼が幸せそうに笑った、シュプレー川での夕暮れだ。
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