I love youを日本語に





「今はね、恋愛は自由だし、愛って言葉に抵抗感はあまりないと思う。

でもね、昔は自由に恋愛できたわけでもないし、愛ってものがとても崇高なものだった。

それに日本人は恥ずかしがり屋の人が多いでしょう?

その日本人が愛しています、なんて訳すのは無粋だって夏目漱石はそう言ったの。」


でも、そこから月がきれいですね、なんてことになる?


「みんなね、思い出してみて。

彼女や彼氏、好きな人にこの気持ちを共有したいって思ったことない?


美味しいものを食べた時、あの人と一緒にこれをまた食べたいな、って。

楽しかったことがあった時、あの人と今度は一緒に行きたいな、って。

きれいな景色を見た時、あの人と一緒にこの景色を見たいな、って。


そう思ったこと…ない?」


鼓動が速くなっていくのを感じる。


美味しいものを食べた時、楽しかったことがあった時、きれいな景色を見た時、わたしは…


苦しくなって、机に突っ伏した。



「夏目漱石はきっとこういう意味を込めたの。


このきれいな月をあなたと見たかった。

月を見てきれいと思ったこの気持ちをあなたと共有したい。

って。」



口に手を当てて、必死に声を押し殺す。

頬に涙がつたうのを感じた。







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