I love youを日本語に
圭祐くんが走って行った先には
5人の男女の姿があった。
その輪に圭祐くんは入って行く。
楽しそうに笑う姿に胸の痛みが加速する。
今の今まで目の前にいたのに。
手を伸ばせば届くところにいたのに。
それなのに、やっぱり、遠い。
圭祐くんたちは駅へと消えていく。
その中の一人の女の子から目が離せない。
茶色く染めた長い髪を揺らして歩く女の子。
歩きながらさりげなく圭祐くんの横に行って、
服の肘あたりを握る。
そして上目遣いで圭祐くんと話をしている。
ああ、一緒だ。
きっと、あの人も圭祐くんが好きなんだ。
こんな離れた場所からでも分かる。
勝てない。
あんなに自然に圭祐くんに触れることなんてあたしにはできない。
あんなにオシャレに可愛くすることだってできない。
それに圭祐くんだって制服姿で、
香水をつけて少し髪を巻いて背伸びするような子どもなんて相手にしないよね。
バイトで円滑に人間関係を進めるために付き合ってくれてるだけだよね。
さっきまでの温かい気持ちが一瞬でどこかへ行ってしまった。
ぽっかりと胸に穴があいたような、感覚。
虚しさでいっぱいになる。
視界が霞む。
ゴシゴシと制服の袖で拭った。
「帰ろう」
駅に背を向け、家へと歩き出した。
その道中、ケータイが鳴る。
トシくんからの着信。
どうやらユウから今日の件を聞いて、
どうだったのかと連絡しようとして誤って電話ボタンを押してしまったらしい。
少し肌寒い中、夜道をこの思いを抱えて歩くのはしんどくて。
トシくんにすべてを吐き出した。