◇君に奇跡を世界に雨を◇
「いいよ、お見舞いなんて。練習で忙しいんでしょ? 私なんか気にしないで、頑張ってよ」
お見舞いなんてこないで。
来られたって苦しくなるだけだから。
走りたいのに、走れない。
毎日練習していたのに、突然、まともに歩くこともできない生活を強いられて。
私のストレスは爆発寸前だった。
お見舞いなんて来られたって、足が治るワケじゃない。
だから、来てくれたって意味ないの。
私はいつからこんな歪んだ性格になってしまったんだろう。
「じゃあねー」
そう言って病室を出ていくふたりに手を振る。
ふたりの背中が視界から消えたとたん、すぅっと頬に貼り付いていた作り笑いが剥がれ落ちた。
自業自得。
勝手に自転車で転んで勝手に足首を骨折した。
でも、神様を恨みたくなる。
大会を目指して毎日毎日辛い練習をしてた。
タイムもどんどん伸びてたのに。
さぁ、大会は目の前だってタイミングで、骨折させなくたっていいじゃない。
窓の外からは、校庭の賑やかな声が聞こえてくる。
みんな練習してるのに、私だけベッドの上でなにやってるんだろう。
もう、陸上部やめようかな。
なんてつぶやいて、ぎゅっと手を握りしめた。
たかが十分の一秒のために費やしたたくさんの時間と努力が、全てばからしく思えて枕に顔を埋めた。