◇君に奇跡を世界に雨を◇
「ぼくは走れないから、気持ちよさそうに走るあかりちゃんがうらやましかった。あかりちゃんは、まるで風になってどこまでも飛んで行けそうなくらい本当に誰よりも綺麗に走るんだよ」
自分のことのように、誇らしげにユウは胸を張った。
「信じてないでしょ?」
困惑する私をチラリと見て、悪戯っ子のように笑った。
「じゃあ、明日午後に4階の南端の廊下に行ってみて。ぼくがいつも見ていた景色が見えるよ。とっておきの、お気に入りの場所なんだ」
「……明日の午後? 別にいいけど。ユウも、来る?」
ギブスのはまった右足をゆっくりプラプラ振りながら聞いてみると
「ごめんね、あかりちゃん。ぼくは昼間は行けないんだ」
ユウは残念そうに笑った。
予想通りの答えに、ぎゅっと胸が苦しくなる。
「そういえば!」
ユウの表情が寂しそうに見えて、私は慌てて話題を変えた。
「そういえば、前にユウが言ってた『奇跡の男』は当たった1000万円を何に使ったの?」
私の質問にユウの表情が和らいだ。