恋は天使の寝息のあとに
その日の夜。
心菜が寝静まって、やっと独りでゆっくりと考えられる時間ができて、昼間訪れた彼女のことを思い出しながら、ひとつため息をついた。

彼女の置き土産に頭を悩まされている。
彼の気持ちを他人の口から聞かされて、私は恭弥に、何て言えばいい?

ありがとうだろうか、ごめんなさいだろうか、伝えたくて、そして確認したくて
何より、彼のいない一日は長過ぎて、少しでも早く会いたいと思っている自分に驚いた。


しばらく考えたあと、私はリビングの広いソファの上でひとり小さく縮こまり、恭弥へと電話をかけた。
少し長い呼び出し音のあと、彼の低い声が耳元で響く。

『何?』

それはたった一言だったけれど、いつもの不機嫌な感じとは違っていた。
少しだけ緊張しているような、私の顔色をうかがっているような。
そりゃあ、私が散々彼を拒絶したあとだもの。警戒されても仕方がない。

調子を狂わされた私は、頭に描いていたシナリオが全て吹き飛んでしまった。
何から切り出せばいいのか分からなくなって、とりあえず場を繋ごうと適当な世間話を口に出す。

「遅くに、ごめん。……寝てた?」

『いや、寝てるわけないだろ。まだ夜の十時だし』

「あ、そっか」

私は時計に目をやりながら、ははっと笑った。
彼は無言のまま私の言葉を待っている。

「……今日一日、何してた?」

『……別に、特に何も』

「またそうやって、自分のこと、教えてくれないんだ?」

私が少しむくれた風に言うと、恭弥は『本当に、たいしたことやってないんだよ』と困ったように言い訳をした。
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