恋は天使の寝息のあとに
「出てくんなよ、風邪っぴき」

そう言って恭弥がしっしっと手で私を追い払う。
私は小さくなってドアの隅に隠れた。

「あの、保育園のお見送り……」

「俺が行くから、お前は寝てろ」

相変わらずぶっきらぼうな物言いで優しさを見せる恭弥に、私は「ごめんなさい……」と余計に小さくなった。

「夜のお迎えも俺がいくから、お前は大人しくしてろ。
そこから出るな。一日中寝てろ。これ以上菌を振りまくな」

なんだか横暴ともとれる言い草で私に命令したあと、恭弥は心菜のスカートを履かせ終え、今度はレギンスに四苦八苦し始めた。
両足がバタバタと宙をもがき、うまく足を通すことができない。

「……迷惑かけて、ごめんね。明日はちゃんと――」

「いいって。しばらくこっち泊まってくから」

ドアの影で心配そうに二人を見つめる私を一瞥して、恭弥が低い声で答えた。
とうとう心菜の着替えという一大ミッションを完遂した彼は、今度は自分の準備をする番だ、黒いコートに袖を通す。

「なぁ」

襟元を軽く直しながら、私に背を向けたまま、恭弥が呟いた。

「このまま、一緒に暮らすか」


「……え?」
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