恋は天使の寝息のあとに
恭弥は都心から東の方へ車を走らせた。
ごちゃごちゃとひしめくビルの隙間から、わずかに海が覗く。

やがて日が沈んでネオンが輝きだした。
臨海地区へ差し掛かると、秋だというのに早くもライトアップされたイルミネーション。
遠くには大きな観覧車。娯楽施設の賑やかな明かりが人を呼び寄せている。

日が落ちてからの外出、ましてやレジャースポットへくるのは久しぶり。
なんだか独身時代に戻ったようだ、わくわくと、胸がざわめくのを感じた。


恭弥は大きな複合型の商業施設の地下駐車場に車を止めた。
「ここならなんでも揃ってるだろ」
そう言って車を降りた私たちは、静まり返った駐車場を横切り、エレベータを使って上階へ。

施設の中は明るく華やいでいた。家族連れやカップルたちで賑わっている。
心菜を連れてショッピングモールへ来ることもあったけれど、心菜に注意を向けていなければならないので、周りを見る余裕などなかった。
今は店内の飾りつけや、綺麗に陳列された商品、すれ違う人にまで目がいく。

いつもとは違って見える景色に面食らった私は、周りをきょろきょろと見回した。
こんなところに恭弥と二人きりで、一体どう彼と向き合えばいいのかわからない。

私がそわそわと落ち着きなくしていると
「ほら、行くぞ」
少し先を歩いていた恭弥の急かす声。

「……うん」
小さく頷いて、彼の一歩後ろを着いていく。

「……先導しろよ。お前の買い物なんだから。好きなところへ行け」
そう言って恭弥は私の背中をポンと弾き、前へと押しやった。


いつもは心菜と恭弥が前で、私はその後ろからついていくだけだったのに。

自分の好きにしていいなんていわれると、なんだか慣れなくて、うずうずした。


何メートルか歩いて、後ろを振り返る。
また何メートルか歩いて、後ろを振り返る。

恭弥の前を歩くなんて初めてだから、なんだか身体がスカスカする。
振り向くといつの間にかいなくなっていそうで不安だ。
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