恋は天使の寝息のあとに
鼻と上唇の傷口を見たところ、そこまで深く切れたわけではなさそうだった。
ならばどうして血が止まらないのか。口の中も真っ赤に染まっているが、どこから流れ出た血なのか。

口の中、切れてる? まさか、歯が折れたんじゃ……

泣いている心菜の口の中を覗き込むが、ざっと見て折れたような歯は見当たらない。

見つからない原因に、泣き止まない心菜に、不安がどんどん膨らんでいく。

打ちつけた鼻は折れたりしていないだろうか。心なしか腫れている気がする。
足は? 手は? お腹は? 頭は……打ってないよねぇ……?
心菜の全身を触りながら、変わったところがないか確かめる。が、所詮は素人目の判断だ、どこまで信頼できるかわからない。

どうしよう、病院に連れて行った方がいい?
でも、もう夜の二十時だし、どこも開いてはいないだろう。
そもそも、転んだときは何科に連れて行けばいいのかな?
小児科? 整形外科? 口の中なら歯医者? 頭を打ったなら脳外科?

ぐるんぐるんと思考が滅茶苦茶になって、それなのに血は止まらなくて、どうしたらよいのか分からない。
鮮明な赤が私の頭から冷静さを奪う。

私が心菜から目を離したから
ぼーっと考え事なんかしてたから
こんな場所で走らせたから

どんどん後悔がやってきて、こんなことを考えている場合ではないのだけれど、私まで涙が出そうになる。

ああ、もう、どうしたらいい?
せめて、隣に恭弥がいてくれたら……
< 93 / 205 >

この作品をシェア

pagetop