As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー





また次に目が覚めると、窓の外は随分と明るくなっていた。





悠太が運んでくれたのか、私はソファではなく、ちゃんとしたベッドの上で目覚めた。




眠い目を擦りながらリビングへ行くけれど、誰も居ない。




代わりに、テーブルの上に書置きがされていた。




『今日は雑誌の撮影なので、早く行きます。 悠太』



今日は土曜日




アイドルに世間一般的な休日なんて関係ないのだ。




ちゃんとOFFの日はあるけどね





「今日は何しようかな」




特に予定はない。




いつも通り家でゆっくりしてよう。




あ、ポスト確認しに行かなきゃ




パパとママ宛の郵便物が沢山入ってるだろうし



部屋着から着替えると、エレベーターで1階に降り、郵便物用のポストを確認する。




予想通り、大きな茶封筒だのなんだのと沢山詰め込まれていた。




それを手に、再び戻り、リビングで仕分けする。




「……これはパパの、これはママの……ん?」




いつもパパかママ宛で、私宛のものなんてないはずなのに




「私宛に?誰だろう」




白い封筒の表には、綺麗な時で書かれた私の名前




裏を向けると、左端に送り主が書かれていた。





「蘇芳碧斗……さん」





その名前に、つい表情が固くなる。




何が書かれているのか、少し怖い。




思い切って封筒の口を開くと、3つ折りにされた1枚の手紙を取り出す。




そっとその手紙を開くと、縦書きの文字の羅列が目に入る。




その内容は、とても簡易的だった。




『はじめまして。いきなり手紙を送ったこと、お許し下さい。この度はお見合いをご引受け頂き、たいへん嬉しく思っています。』


本当に嬉しいのかな……


あぁ、経営する会社が大きくなるから嬉しいのか



なんて皮肉な思いを心の内で呟きながらも、黙々と続きを読んでいく。




『千代さんはまだ高校生と言うことですが、もし私との年の差を気になさっているようでしたら、それは問題ありません。恋愛や結婚に年など関係ないのですから。さて、お見合いの件なのですが、日にちはお父様と話し合った末、来月の10日となりました。』




来月……5月10日




気持ちが一気に沈む。




そんな時だ。スマホの着信音が鳴ったのは。




「へ?」




いきなりの音に、間抜け声をあげつつも、スマホを手に取り着信に出る。




「もしもし……」




『千代?』




「悠太?」



でも……この電話番号悠太のじゃない



『今、酒井さんに携帯借りて電話してるんだ。』



酒井さんというのは、『StarRise』のマネージャーさん。



どうしたんだろう



「どうしたの?」




『千代の家にスマホ忘れちゃったみたいなんだ。悪いんだけど届けてくれないかな』



その場でふとリビングを見渡す。




あ、あれって雄太の……



ソファの上に黒いボディのスマホが放置されている。




「ん、わかった。どこに行けばいい?」




『…………って所の3番スタジオ。あ、じゃあもう休憩終わるから!』




そういって、直ぐに通話は切られてしまった。




それから、急いで支度を済ますと家を飛び出して、撮影スタジオまで早足で向かう。




最寄り駅から3つ離れたスタジオに着くと、受付の女性に声を掛ける。




「あの、3番スタジオの葉山悠太に届け物何ですけど…」




「お名前をお願いします」



「日比谷千代です」




「あぁ、日比谷社長の……。少々お待ちください」




電話の子機を手に取り連絡を取る。



しばらくして



「確認が取れましたので、奥の3番スタジオへどうぞ」




久々に来たスタジオに緊張しながらも、悠太が待つ3番スタジオへ入る。



パシャパシャと光るシャッターと、ライトの光が眩しい。



丁度撮影しているところみたい。



「あ、千代さん!」



そう呼ぶのは、酒井さん。




スーツを身にまとった、縁なし眼鏡の優しい人だ。



「今は撮影中だから、そこの椅子で待っているといいよ。あ、お茶入れてくるよ」



「ありがとうございます」



パイプ椅子に座り、ジッと撮影風景を眺める。




お洒落な服を着て、髪もバッチリセットされた悠太。



全然雰囲気違う。



アイドルの時に見せる笑顔は無くて、クールな表情。



もう、本物のモデルだ。




「葉山は本当に凄いよ。なんというか、切り替えが良いんだ。アイドルの時はアイドルらしい表情を出すし、モデルの時はああやってクールな表情も出来るし、カメラマンに要求されたポーズや表情にもすぐ対応できる。まるで役者みたいだよ。この調子なら、近いうちに役者としての仕事も来るかもな」




「……そうですよね。」




撮影が終わると、私に気づいた悠太が駆け寄ってきた。




「ごめん、待たせちゃって」



「はい、しっかりしなきゃダメだよ」



カバンからスマホを取り出して悠太に渡す。



「ありがとう、助かった!」




「じゃあ、私はこれで」




「え、ちょっと待った!」



帰ろうとする私の手を引き止める悠太。



「ん?」




「このあと、StarRiseの皆とレッスンあるんだけど、千代に見ててほしいな。ダメかな」




「このあと特に用はないからいいけど……私が居ても大丈夫なの?」




「酒井さん、良いよね?」




「問題ないよ。一応千代さんもこの業界の関係者だからね」




「という訳で、隼人くんに怒られないように早く行こう!」



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