As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
それからあっという間に半月が過ぎ、もう6月後半に差し掛かっていた。
梅雨独特のジメッとした空気が教室を漂う。
「うわぁ、雨降りそう……」
空は一面雲で、悠太の言う通り、雨が降りそうだ。
朝の天気予報では晴れのはずだったんだけど。
でもまぁ、学校に折り畳み傘を置いてあるし、降っても濡れることはない。
「どうしよ、今日は撮影あるのに……」
隣の彼は心配のようだ。
「もし降ったら、傘入れてあげようか?」
「え、本当!?」
嬉しそうだ。
「うん。いつものところだよね」
「ありがとう!」
大きめの折り畳み傘だし、多分大丈夫だよね。
放課後、案の定雨は降り、走って買えるにも無理があるほどのどしゃ降りだ。
昇降口で、傘を開いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「二人とも、これから?」
「あ、悠太、傘忘れたのか」
「二人とも、傘あるの?朝のニュースでは雨だったのに……」
拓己くんと隼人くんだ。
「この時期、急に降ることもあるから、置き傘してたんだよ」
「そうそう。で、悠太くんは千代ちゃんに入れてもらうの?」
「そうだよ~、羨ましいでしょ!?」
「あー、はいはい。羨ましい、羨ましい」
「棒読みやめてっ」
「千代ちゃん、俺の傘に入らない?」
「ちゃっかり口説くのもやめてっ!」
「ほら、行こう?遅刻しちゃうよ」
「あ、うん」
悠太は、慌てて私の傘に入った。
後ろから、二人がついてくる。
大きな折り畳み傘だとはいえ、少し狭い。
それに、悠太は背が高いから、傘を高く上げなければならない。
「千代、僕が持つよ。腕、辛いでしょ?」
「……ありがとう」
そんなちょっとした優しさに、少し胸がざわついた。
「僕、雨ってあんまりすきじゃないなあ」
「どうして?」
「ジメジメして気持ち悪いし、湿気で髪が跳ねるんだよね。ほら、寝癖がまだ治らないんだよ?」
跳ねた髪を指差して見せた。
湿気で前髪が跳ねてる。
それが少しかわいらしい。
「ふふっ、本当だ。あとでちゃんと直してもらわないとね」
「プロなら、ちょちょいのちょいだからねっ」
「今日は何の撮影なの?」
「えーっと、バラエティ番組の収録だったかな。結構大物タレントも来るみたいなんだよね。なんだか緊張しちゃうなぁ」
「お、大物タレント……」
そんな場所に私が行ってもいいんだろうか。
「不安そうだね。大丈夫だよ、千代なら。名前さえいえば誰でもわかるし、許しも出ると思うから」
不安が顔に出ていたのか、悠太がそう言ってフォローしてくれた。
「そ、そっか。でも、私は入り口で悠太を見送ったら帰るよ」
「だーめ。だって、帰りも雨が降ってたらどうするの。帰りも千代の傘に入れて?ね?」
そ、そっか、そうだった。
「わかった」