エリート上司に翻弄されてます!












その日仕事を終えて家に戻ると8時を過ぎた時刻で、玄関の前で深桜ちゃんから連絡が来ていることに気が付いた。
それは今日も小牧ちゃんの家に泊まるという内容だった。

深桜ちゃんが家を出て行って数日が経つ。
彼女が帰ってくる気配はまだない。

このまま帰ってこないという事態になってしまったら。
そう思うと怖くなって、俺は彼女を1つ縛ってしまった。

消えるときは勝手に消えないで。
そう言えば、彼女は俺の前からいなくならないと思った。


「(取り敢えず風呂沸かして、冷蔵庫確認するか。何か残ってたかな……)」


玄関扉を開けると真っ暗な廊下が続いていて息が漏れた。
この前まではインターホンを鳴らすと扉の向こうからぱたぱたと音が聞こえて、怒った表情の深桜ちゃんが出迎えてくれた。

部屋は明るくて、美味しそうな夕御飯の香りが玄関まで届いていた。
俺がそう深桜ちゃんに黙って仕込んであった。

深桜ちゃんをずっと騙していた。
それなのに帰ってきてほしいだとか、それはただの俺のわがままだ。


「(……先に着替えるか)」


廊下の電気を付けないまま寝室へと向かった。
スーツのジャケットをハンガーにかけるとネクタイを緩める。

姿鏡に映る自分の顔を眺めながらこの後の予定を確認する。
風呂入って肌のケアして、残ってるブロッコリー使ってサラダ作って炭水化物は抜いて、軽く仕事確認して早めに寝よう。

今日は誰も起こしてくれないから遅刻しそうになった。

ベッドの上に倒れこむとはぁと枕に顔を埋めて溜息を付いた。
こんなことをしている時間はないのに、体が怠くて動かない。

家にいた人がいないだけでここまで調子を狂わされるだなんて。


「(深桜ちゃん……)」


早く帰ってきてほしい。
俺が俺じゃなくなる前に。



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