エリート上司に翻弄されてます!




え、と頬をなぞると指に水滴がつく。


「あ、あれ?何でだろう」

「えー、もしかして感動しちゃった?確かに俺がこの世で手料理を振舞うのなんて世界で何処探しても深桜ちゃんだけだし、感激して涙が出るのも仕方がないと思うけど」

「あ、止まりそう」


止まったわ。凄いなぁ、乾先輩のナルシストは涙も止めちゃうんだなぁ。
私が鼻をすすると心配げな彼が「大丈夫?」と頰に付いた涙を指で払ってくれた。


「本当にどうしたの?」

「……」


玄関に立ち尽くしていた私は首をふるふると横に振った。


「何か、幸せだなって……先輩のこと好きだなって思ったら涙が出ちゃいました」

「……」


変ですよね、と笑って私は涙を拭う。
好きな人と一緒にいるとこんな気持ちになったりするんだなぁ。

手のひらに付いた水滴を眺めているとふっと私の上に黒い影が重なった。
顔を上げれば直ぐそこに彼の顔がある。

その真っ直ぐな瞳に魅せられた私はすっと顎を上げるとそのまま目を閉じた。
軽く唇同士が触れ合おうとした。

その瞬間、パシンッと乾いた音が玄関に響いた。

何だ?、と瞼を開くと私は目の前の状況に「え!?」と声を漏らす。
何と乾先輩が自分で自分の顔を叩いていたのだ。

あの乾先輩が自分の顔を傷付けるなんて!



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