そこには、君が





「大和!」





私はエレベーターすらも待てず、


階段を登ることにした。


到着と同時に階段から大和が見えて、


恥も忘れて名前を叫んだ。


そして無我夢中で駆けて行き、


だるそうな大和に飛びついた。








「っわ、っぶねえ…」






「遅くなってごめん」







大和の肩にぶら下がる格好で


ずっとしがみついていると、


大和はそんな私をずっと抱きしめ続けた。








「待たされるのは得意なんで」






「何それ、嫌味じゃん」






ずっとぶら下がっていると、


大和は私の手から鍵を取ると、


抱きしめたまま鍵を開けてくれる。


私はもうそこから動きたくなくて、


動きの全てを大和に委ねた。






「重い」






「うっさいな、一言余計です」






そう言いながら私をソファへ運ぶと、


自分も横に座り、私の肩に手を回した。







「あのね」






今日のあったことを大和に話す。


春太さんに呼ばれて行ったこと。


凛への想い。


そこへ徹平が駆けつけてきたこと。


最後に話したこと。






「なんで好きなのに、離れないといけないんだろうね」






「まあな」






また泣きそうになって視界が歪む。


そんな私に気付いたのか、


大和は私を自分に寄せた。








「でも1番辛いのは凛だからな」






「そうだよね」






「それより、」






大和はそう言うと同時に私を、


ソファへ押し倒した。







「お前、何あの男の名前呼んでんだよ」






おい、と言いながら、


私の両側に手を付くと、


上から見下ろして怒っている。







「いや、だって…」






他に呼び方知らないし。


したこともない呼び方だと、


なんか違和感だし。


何より、無意識だったし。







「次はねえからな」






「もう呼ぶことないよ、会わないし」






「ったく、気が気じゃねえ」







そんなことを、ポロッと漏らした後。


私との距離を一気に詰め、


キスをした。







「っん…大和、」






「声出すな。抑える自信ない」






口を塞がれながら、


優しく撫でられる髪。


この男に囚われた私は、


もう何も怖くなんてなかった。







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