白鷺の剣~ハクロノツルギ~
その男のせいで、道場が潰されてしまったなんて……。

「愛刀一心流、道場主の名は藤堂宗光というらしい」

愛刀一心流……藤堂宗光……。

私はその名を胸に刻み付けて、宗太郎を見つめた。

「……その後、白鷺一翔はどうなったの?」

宗太郎は僅かに眼を細めると、空を見据えて口を開いた。

「男は藩主の遠縁と言えど付き合いなど皆無で、近親者はなかったらしい。亡骸は寺の無縁墓地に埋葬されて、形見となった白鷺一翔を譲り受けたいと願い出る者もいなかった。それで藤堂宗光が返しに来たんだ、白鷺のところに」

「そうだったの……」

「ああ。藤堂宗光はたいそう驚いてたよ。目の前の西山白鷺はまだ二十歳だ。
その上、十五の時に白鷺一翔を世に生み出したと知ってな」

そりゃ驚くだろう。

ああ、やっぱり白鷺は凄い刀匠なのだ。

宗太郎は酒を傾けた後、私を見つめた。

「事実を知った白鷺がどういう行動をとったと思う?」

私は首を横に振った。

それを見た宗太郎は静かに続けた。

「アイツは、男が払った白鷺一翔の代金の数十倍を藤堂宗光に渡そうとしたんだ。作ったばかりの道場を潰さなければならなくなった責任の一端は、白鷺一翔をあの男に売った自分にもあると思ったんだろうな。だが藤堂宗光はその金を受け取らなかった。代わりに白鷺に願いを残したんだ」

そこで一度言葉を切ると、宗太郎はゆっくりとした低い声で言った。
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