白鷺の剣~ハクロノツルギ~
私は、首を振りながら前方の空間を見つめた。

「ご存知だったんですか。
あの……刀に宿り続けるのは辛いんじゃないかと思って……」

私がそう言うと弥一さんの深い溜め息が聞こえた。

「優菜……頼む。
話を聞いてくれ。
俺は……もう刀から離れたいのだ」

私は神棚に置いてある白鷺一翔をそっと見上げた。

白鷺一翔は存在も分からないくらい静かに鎮座していて、以前見た青い光は放っていなかった。

「……どういうことですか?」

私は行灯の心許ない明かりに照らされた真正面の空間を見つめてそう訊ねた。

不思議なことに、もう恐怖は消えていた。

「俺は死罪になる予定の罪人を多く斬ってきた、白鷺一翔で。
白鷺一翔の切れ味は素晴らしかったし、死罪になる人間など誰が斬っても同じだと思っていたんだ。
……あの時の俺は知らなかった。
斬り殺した罪人の魂が刀に宿り、それがまた新たな魂を絡めとる事を」

弥一さんはそこまで話すと、やりきれないような長い溜め息をついた。

「いつの間にか、俺は自分が斬り殺してきた罪人の魂に操られていたのだ。だからあの日も」

弥一さんの声が震えた。

「……俺には……剣の腕がなかった。それが長年恥ずかしかった。兄や弟に追い抜かれバカにされ、父上からは見放された。
なのに白鷺一翔は、そんな俺に夢を見せてくれたのだ。
超絶な切れ味は、自分の腕を錯覚するにあまりあるもので、そこへ罪人達の魂が相まって、俺は我を忘れてしまった。道場破りなど……」
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