白鷺の剣~ハクロノツルギ~
私がそう言うと弥一さんは、

「そうか……お前は白鷺を……。
俺にも昔、惚れた女がいた。
……柚菜、気を付けろ。白鷺一翔に宿っているのは俺や俺が斬った罪人の魂だけではない事には気付いただろ?」

弥一さんが言っている意味はすぐに理解出来た。

あの生き霊の事だ。

私は、生き霊の放った懐剣につけられた頬の傷に触れた。

「はい」

「あの女は、西山白鷺に執着している。いつか白鷺一翔で西山を刺し殺すだろう」

私は弾かれたように辺りを見回した。

「……何故ですか?!彼を好きなのに殺すの?!」

「柚菜。好きだからこそなのだ。西山が誰かを愛し、誰かのものになるくらいなら殺して自分だけのものにしたいのだ」

沸々と怒りが込み上げてきて、私は両手を膝で握り締めた。

「……そんなのおかしい。愛してるなら彼の幸せを一番に考えるべきでしょう?!殺すなんて間違ってる!」

声が震えて息が詰まりそうになり、私はハアハアと荒い息を繰り返した。

「柚菜、生き霊になるというのは、狂気なんだ。名の通った祓い屋ですら、生きている人間の生み出す霊には手を焼く」

背筋に汗が流れ落ちた。

怖い。

だけど、私は白鷺を守りたい。

怖さのせいで涙が頬を伝ったけれど、私は必死だった。
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