白鷺の剣~ハクロノツルギ~
その顔には先ほどの甘さはなく、僅かに何か別の感情が浮かんだように見えた。

なんだろう、この瞳の光は。

苛立ちにも見えるし、焦っているようにも感じる。

その時、ふと雅さんが私を見た。

異様に光る瞳は何だかひんやりとした空気のようで、私は思わず眼を見張った。

「お嬢さんは……確か何度かお見かけしたわね?あなたは……白鷺とはどういう」

「雅」

白鷺が身体の向きを変えて、私と雅さんの間に肩を割り込ませた。

「部屋へ行こう、雅」

「白鷺……嬉しい」

ドクドクと鼓動が耳元で響き、窒息しそうな程苦しい。

彼女を抱く気なの、白鷺。

嫌だ……嫌だよ白鷺。

白鷺の顔を見て私は悟った。

白鷺は望んでいない。

本当に彼女を愛しているなら、そんな苦痛に満ちた顔なんてしない筈だ。

こんなの間違ってる。

間違ってるよ、白鷺!

私に背を向けた白鷺の身体に、雅さんがしなだれかかった。

「白鷺っ!」

涙声になりながら、私は白鷺を呼んだ。

「白鷺!」

ゆっくりと白鷺は足を止めたけど、私を振り返ろうとはしなかった。
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