白鷺の剣~ハクロノツルギ~
白鷺に揺さぶられて切なく眉を寄せ、彼にしがみついていた彼女。

「……っ……!!」

息と一緒に嗚咽が洩れ、涙が頬を伝って散った。

あの時になかった感情が、今はこんなにも心の中で根を張り枝葉を広げていたなんて。

もっともっと走りたいのに、息が上がって走れなくなって、私は大きな樹木に両手をついて俯いた。

私、白鷺が好きなんだ。

けれどそれは叶わない想いで、いつか私は現代に帰る。

乱れる息の中で私は涙を拭い、眼を閉じた。

落ち着こう。

幕末の人間じゃない私は、ここに住めない。

白鷺とは結ばれない。

彼にはあんなに素敵な恋人がいるんだから。

なら、今のうちに諦めなきゃ。

この想いを封印して、彼に好きだという素振りなど一切見せずにいよう。

それが、一番正しい。

私は深呼吸して息を整えた。

さあ、逃げてきちゃった言い訳を考えなきゃならない。

樹木に背を向けて辺りを見渡すと、遠くに私を探し回っている白鷺が見えた。

さあ、苦笑して、申し訳なさそうに笑う……。

「白鷺!」

私は白鷺に向かって駆け出した。


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