without you
そうして訪れた・・・運命の、5月10日。
出産予定日まであと3日。
だけど、赤ちゃんが生まれる気配は全然ない。
まあでも、「そういうものよ」と、お母さんとお義母さん、二人の母から言われたし。
大らかな二人の口調を思い出した私は、顔に笑みを浮かべながら、一旦立ち止まると、家の鍵を出すため、ショルダーバッグの中に、右手と視線を移した。

母の日に生まれるかな。
って、それって予定日より1日遅れなだけだし!
もう少し先かも。
鍵を見つけた私は、まだ顔に笑みを浮かべたまま、視線を前に戻した、そのとき。
エントランスのドアガラスに映った男の姿に、ハッとした私は、つい後ろをふり向いてしまった。
と同時に、あいつが・・・吉見が、右手を大きく上げて。
大きな私のおなかに、ナイフを突き刺した。

「・・ぁ・・・・・」
「俺以外の男と結婚した上に、子どもまで作りやがって。俺が許すとでも思ってるのか?え?」

この人、明らかに私のおなかを狙って・・・体が、震える。
ショックで呆然としている私に、あいつはさらに一歩、近づいた。
そして、私のおなかに刺さっているナイフを右手で持ったまま、「許すわけないだろ」と囁くように言った。

「・・・い」
「は?」
「あんたの許可なんか・・いらない。だって、わたしの人生にあんたはいなくていいんだから!」

私は叫ぶようにそう言いきると、渾身の力を込めて、あいつを両手で押し退けた。
その間に、エントランスの中から駆けてきていた、コンシェルジュの野村さんと、チーム寺井の南田さんが、あいつを取り押さえた。
そして同じくチーム寺井のメンバーで、私の護衛をしてくれていた、女性の浜田さんと、総指揮官の寺井さんは、倒れそうになっていた私を、二人がかりで抱きとめてくれた。

「終わったよ」
「・・ほん、とに・・・?」
「ああ。これでもう本当にけりがついた。終わりだ。あみかさん、よくやった」という寺井さんの声が聞こえたのを最後に、私は意識を失った。

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