怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
入社当初は花粉症と思われていた彼女のマスクだが、春が過ぎ花粉症の人たちのマスク姿を見なくなった今でも常につけているのを見ると喉が弱いのかアレルギーか。
彼女を現す言葉に
「古臭い感じで地味なマスクした子」
これだけの大企業の中で彼女を見たことがある人なら必ずあの子と正解が出るほど印象を残す。
冷やかしやバカにしたようなものもあるが、
傍で仕事をしている者たちは、彼女の人柄や仕事ぶりには好感の方が大きい。
先輩たちから理不尽とも思える指摘や無理難題を課せられる事も当然ある。
だが一度として反抗的態度も、反論も不機嫌さひとつ見せない。
「すみません」「申し訳ありません」「わかりました」
それは、見ているものが悪くないよと庇ってあげたくなるほど従順で
必ずと言っていいほど導き出す答えは自分の誤ちのようだ。
指摘した方が、「ごめんね。嫌な思いさせて」
思わず言ってしまうのを何度見たか。
それすら慌てたように
「過ちを教えていただき有難うございます」
深々と頭を下げて急いで仕事にとりかかるから周囲の人間は自然と笑顔になる。