怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
水中に何かを見つけたようで飛び石の上から覗き込み手を伸ばしはじめた。
その姿は無邪気な子どものようで黙って見ていたが
ズルッ バシャンッ
「アブねッ」
「痛ぁ」
すぐに自分で顔をあげたが水の中に浸かった顔がびしょ濡れだ。
額を少し切ったようで血が滲んでいる。
「バカか。手をつけ」
「ついた」
ジャケットの中から小さ目のタオルを手渡す。
カメラじゃなくてこいつに役立ったか。
メガネだって濡れてんじゃねぇか。
拭いてやろうとメガネに手を伸ばすと必死に応戦してくる。
「お前、怪我もしてんだ。黙って傷見せてみろ」
その手を抑えようとした瞬間どちらの手がぶつかったのか美祈のウィッグが後ろへグッとずれた
「は?」
「あ」
唖然とする瑛太と慌てる美祈。
ズレたせいで少し広くなった額に
やっぱり病気なんだな。
髪が抜けちまったのかな。
急にやめても不自然だよな。
「ほら、ちゃんとこっち向け。見せてみろ」
何気なくずれたウィッグを戻してやる瑛太。
笑うどころか心なしか心配そうな瑛太の顔を見つめる美祈。
「すみません。ちょっとあっち向いて下さい」
美祈からする声は先程までとはうってかわってあまりにもか細く弱々しかった。