怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】


瑛太は美祈を傷つけたのかもしれないと言われた通りに後ろを向いた。


美祈もまた、ウイッグがズレてしまって動揺している。

恥ずかしさは当然だが理由を聞かれたらどうしよう。

この髪型をお洒落の為というのはどうも的外れだし…

それに瑛太がなぜ心配そうな顔をしているのかその理由を探した。



「病気ひどいのか」

瑛太の声に

あぁ…病気だと思ってるんだ。


だから笑い飛ばす事もなく揶揄うこともなかったんだ。

本当にいい人なんだ。


胸の中が熱くなって美祈の目には涙が浮かんだ。


自分を隠しているのに心配してくれる瑛太に申し訳なさが募っていった―――。



この人に嘘をついちゃいけない。

こんなに心配してくれる人に嘘をついてごまかすなんて出来ない。

意を決したようにメガネを外しマスクを外ずすとウィッグも外しネットと髪を止めているピンもすべて外した。



「正直に言います」


「無理に言う必要ねぇよ。今、元気なんだろ?ならいいじゃねぇか」


「違うの。これが私の姿なの。」


後ろを振り返っている瑛太の身体を美祈は右手で自分の方へ向かせた。


「お願い。嫌わないで」


懇願するようで切なく響く美祈の声。


「おまっ…」


瑛太は固まって言葉も発せず動けない。


留めていたから長い髪はくせでうねり、眉だって太い。


それでも瑛太の目の前にいる女は、溜息が出るほど可愛く


綺麗でつぶらな瞳には今にも涙が溢れそうになっている。


「騙しちゃったみたいになってごめんなさい」


深く頭を下げたまま足元に涙の粒がいくつもいくつも落ち続けている。


「あ…謝るなんてしなくていい。病気じゃないならそれでいい」


瑛太は慌ててその身体を起こしてやった。




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