光のワタシと影の私

活動の始まり…?

 自宅に戻ると父の姿もあったことだからちょうど良いとばかりに両親と向かいあって話し合うことにした。
 ワタシのことを受け入れてくれる音楽事務所が見つかったということ。
 その事務所では数多くのアイドルや音楽グループを本格的に育成もしていること。
 ちょっと早いとも思えたけれど、ワタシがこれから音楽活動を行っていくうえで名前を決めてきたということ。
 あらかたざっとした説明になってしまったけれど、あまり細かな話しをしても両親にはすべて理解してもらうことは難しいと思えたし、なによりもワタシが両親の立場だったとしたら簡素にまとめて説明してもらったほうが話しは分かりやすいと思えた。
 「そう…。もう、そんなことまで決めちゃったのね…」
 母は、自分の知らないところで歌手名まで決めてしまったワタシに対して寂しい気持ちになっているのか、残念そうな表情と肩をほんの少し落としてみせた。
 父は、静かにワタシの話しを聞いているばかりでうんともすんとも口を挟んでこない。
 「貴女がそこまで本気でやりたいっていうなら…お母さんは反対したいけれど…。やっぱり今まで以上に大変だってことは…分かってるわよね?」
 「うん。ライブハウスだけで歌うだけじゃなくて、これからもしかしたらCDとかも売りに出されることになるかもしれないし、世の中から反感とか批評も買うかもしれないけれどそれはライブハウスで歌ってたときにも経験してきてることだから今まで以上に増えることだって覚悟してるつもりだよ」
 どんなに売れている歌手、可愛いアイドルグループだって多くのファンがいればその反対に批評の声だって高まるものだ。
 特にインターネット上において叩かれているアイドルもそう少なくない。
 パソコンと向かい合う時間が多いワタシだから当然、ネット上においてのアイドルに対しての批評の意見といったものも数多く目にしてきた。これから自分も叩かれるようになるのかと思うとゾッとするところもあるけれど、やっぱり叩かれる覚悟を持たなければ音楽業界では生き残れないと思う。
 「…REI、として歌っていくんですってね?」
 「うん。名前が麗花だからそこから使わせて貰おうかなって思って。簡単だし、覚えてもらいやすいかなって思うし」
 「うん、良いんじゃないかしら?呼びやすいわよ」
 両親から与えてもらった名前を使って音楽活動をしたいという夢はあった。本名そのものを使って活動を始めようかとも考えたけれど、やっぱり少し抵抗があってすぐ周りからちやほやされたり指をさされることになるのかと思うと偽名で活動したいと思ってしまった。
 「…それで、これからどうするのか目処は立っているのかい?」
 ここに来てようやく口を開いた父が不思議そうに僅かに疑問を浮かべて問い掛けてきた。
 「これからはとにかく世の中の人に少しでもワタシの名を広めていく活動をするみたい。今まで作った音源を動画サイトに事務所が挙げてくれたり、ちょっとしたPVで名を広めてから本格的にCD制作に進めてくれるみたいだよ」
 鳴宮さんとは少しの間しか話せなかったもののこれから行っていく活動はざっと説明してくれた。
 もちろんライブハウスにおいての音楽活動は時間が空いているときであればこれからはREIという名でおこなっていけばますます名も広めていくことが出来るようになるし、ライブハウスに来てくれるお客さんから目を付けてもらうことができるようになる。
 事務所に所属するからといってすぐにCDを制作してもらうことが出来るというわけではなく、最初のうちは様子を見ながらじょじょにレコード会社とどんな歌を売りに出していくかワタシと一緒に考えていくらしい。
 基本的には、今までとなんら変わりない活動を進めていって良いという話しだったからワタシとしては正直焦りとか不安とかが無くて安心した。
 いきなり今までとは違うこと、変わったことに手を出そうとすると絶対に多かれ少なかれボロが出てしまうだろうからそれが歌に悪い影響が出てしまうと思うと尻込みしてしまうからだ。
 「お母さんたちはいつでも応援してるから。困ってることがあったらいつでも相談するのよ?」
 「うん、ありがとう」
 父も母と同じ想いだったらしく、最後まできちんとワタシの話しを聞いてくれると母の言葉に黙って頷いてくれた。
 本当にワタシは恵まれた家庭に生まれ育ったと思う。
 両親に改めて感謝するとテーブルにぶつけないように気をつけながらも深く頭を下げてお礼の言葉を告げていった。
 初めて事務所に訪れたことで慣れない場所と雰囲気に身体がいつの間にか疲れてしまったのか夕飯を済ませてお風呂から上がると普段のワタシだったら迷わずに自分の部屋にこもって新曲の作成に取り組んでいたところだが今日はそんな余裕が無かった。
 ごろんとベッドに寝転がると数分も経たないうちに重くなってくる目蓋に抗えずに部屋の電気をつけっぱなしにしたまま眠りに落ちてしまった。
 部屋の電気の明るさにびっくりして目を覚ますと既に夜中の1時を回ってしまっている時間になっていた。
 何となく携帯を弄ってみると寝ていたために気がつかなかったが鳴宮さんから個人的なメールが届いていた。
 『こんばんは。今日はお疲れ様。初めての事務所見学もといこれからの活動の意気込みはどうなったかしら?今日は何かと疲れたでしょう?早速だけど、もし明日から時間があったらREIとして最初のお仕事を始めていってもらうわよ。それは、ブログを正式に始めていくこと。今までブログってやったことなかったわよね?ブログを通して貴女という存在を世の中に知っていってもらうことが出来るようになるわ。メール内に添付してあるアドレス先が貴女の…REIのブログになっていくからテンプレートとかは貴女好みに仕上げてくれて良いわよ?このブログはウチの事務所に繋がってるものだから安心してじゃんじゃん投稿してくれて構わないから。それから今度の土日、出来れば両方!空けておいて!事務所で貴女のプロフィールを作成するから事務所にまた来てもらうわよ!それじゃ、また連絡するわ!もちろん貴女からの相談メール、何でも受け付けてるからいつでも連絡してね!』
 …とても見ていて目が痛くなるほど長い文章のメールだった。きっと必要なことは他にも言いたかったのかもしれないが、なんとかこの量でまとめてメールをしてくれたんだと思う。
 そして、メールには鳴宮さんが言っていたように添付されているアドレスがあった。そこをクリックしてみると本当にまっさらな状態ページが目に飛び込んできた。このまっさらなページをワタシ好みに調整していくことが出来るというのはワクワクしてくる。
 ブログはずっと続けていくことができるかどうか不安があったので今まで手を出すことが出来なかったもののこれからはそうは言っていられないらしい。
 毎日の、ちょっとした出来事でも良いからブログを更新することを忘れないようにしよう。
 再び寝ようと布団に潜ったときには夜中の3時を回っていた。
 …明日、遅刻しないようにしなくちゃ。
 
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