この恋は、風邪みたいなものでして。


「彼女は、俺がこのホテルの御曹司とは知らずに、小説家である俺を支えたいと言ってくれました。俺は彼女がいい。そう心から思いました。彼女と結婚します」

颯真さんが、店長と一緒に支配人を此処に呼び出して、そう宣言しようとしていたのだと今、気づいた。

本当に用意周到な人だ。

「経営の方も、これで二人は進めて下さるのよね?」

店長が咳払いをし、そして腕時計を見る。

私も見ると、もう出勤15分前というギリギリの時刻だった。

「経営て、『オーベルジュ』の事ですよね」

ずっと店長が気になっていたのは、経営の何だろうか。

「ずっとスイートルームの熱帯魚デザインの部屋が壊れてしまってるし、その上に増築してウエディングの計画って何年も前から言っているくせに計画が止まったままで苛々していたのよ。その間に小説家の真似事まで始めちゃうし」

「そうだったんですね」

でも、それで納得したかもしれない。
オーナー自身が、自分のホテルのスイートルームに泊まるなんておかしいもんね。
壊れて修理中って事をカモフラージュする為に、ずっとあそこに滞在していたんだ。


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