この恋は、風邪みたいなものでして。

「私が仕事に戻らせて頂きます。貴方はどうするの?」
「わ、私も今日は使い物にならないかもしれませんが、頑張ります!」

店長の後に着いて行こうとすると、その両手を掴まれた。
振り返ると、颯真さんと支配人が私の手を掴んでいる。

「勿論、結婚式はこの二人の思い出の場所、イル・ジャルディーノでいいですね? 予約しておきますよ」
「いえ。式は、俺の『オーベルジュ』です。第一号が支配人である俺です」

「あの、その、私は仕事がありますので」

「正直に、この分らず屋に言ってやりなさい。最初が肝心ですよ」
「わかば、君を幸せにするのはこの頑固ジジイではない。俺を信じて」

二人は一歩も譲らす、しかも本気で睨みあっている。
二人に掴まれた腕のせいで私にも火花がバチバチ当たって来ている。
これってどっちも素敵過ぎだし、どっちを選んでも角が立つじゃない。

「すいません。本当に仕事に遅れますので!」
そう強く怒鳴ってくれたのは、誰でもない。
昨日まで颯真さんの本当の婚約者だと思っていた店長だった。

「行きますよ。あの二人は、暫く親子喧嘩でもしておけばいいんです」

やっぱり不機嫌になってしまった店長が、二人の腕を引き離してくれたので、この隙をついて逃げ出す事にした。

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