パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

そう言われれば、その気にもなる。
琴美に向けてかざしたドレスを自分の身体へと当てて鏡を見てみた。


「ね、二葉も試着してみたら?」

「えー、いいよ、私は別に」

「いいじゃない。着るだけなんだから」


私たちのほかには誰もいない部屋。
近くで見守っていた女性スタッフまで「ぜひどうぞ」なんて。
そこまで言われたら、「いいです」と頑なに拒むのもおかしな気がして、つい「それじゃ……」なんて答えてしまった。

一生着ることはないだろうと思っていながら、やっぱりウエディングドレスに憧れはある。
せっかくの機会だから琴美に便乗させてもらおう。

女性スタッフと一緒にフィッティングルームへ入り、ドレスへと着替える。
背中のファスナーを上げられると、気分まで盛り上がって、背筋がピンと伸びる思いがした。

私のドレス選びでもないのに。
心の中で自嘲気味に笑った。

琴美の前へ出て行くと、「きゃー! 二葉ってば、それすっごく似合ってる! 二葉のためのドレスみたい!」と琴美が大袈裟に誉める。


「私のことより、琴美は試着してみないの?」

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