パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

そこには、海二の手を取ったお母さん、あっくんと紗枝さんまで。
それから、仁との新たな生活をし始めたときに挨拶程度に会った仁の両親、琴美に池田くん。
そして、驚かされたのが、Sea sideのマスターと菊池部長の姿だった。

みんなの祝福と、思いがけない人の顔に熱いものが込み上げてくる。


「泣くんじゃないぞ」


私にだけ聞こえる声でお父さんが囁く。
それに頷き、真っ直ぐ前を見据えた。

神父様の立つ前には、穏やかな笑みを浮かべて立つ仁。
美しい讃美歌が流れ始め、仁の待つところへゆっくり一歩ずつ近づいていく。
その歩みの中、ふたりが出会ってから、今日までのことをひとつひとつ思い返していた。

仁との思い出は、優しさをもらった記憶ばかり。
いつも温かい愛情で私を包んでくれた。
その中でただひとつだけ、何よりも辛かったのは、仁に嘘を吐いて傷つけたことだった。
私以外の人と結婚することよりも、他に好きな人がいると嘘を吐いた夜。
あの夜見た仁の顔は、思い出すたびに私の胸を締め付けた。

でも、あの別れは、この日を迎えるためのものだったのだ。
そう思える自分がいることに、ちょっとした驚きを感じていた。

仁の前まで来ると、お父さんは私の手をトンと軽く叩いて、私から離れた。

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