初恋は叶わない
一斉に動き出す人波。

始まるときはバラバラに集まる見物客も、

帰るときは一度にだから、

さっきとは比べ物にならない混雑具合で。

それを他人ごとみたいに見下ろす私の隣で、

ふいに誰かが飛び降りる気配。

振り向くと、忍者みたいに片膝立てて早川が地面に着地した。


さっすがー。


って、感心してる場合じゃない。

そうだ、もう帰らないといけないんだ。

慌て出す私を置き去りにして、

早川は、


「じゃ、お先ー!!」


と、澄ました顔で、自転車のスタンドを蹴り上げた。


「ちょっとぉー!?」


『お先!』じゃないでしょ!

連れてきたんだから、責任持って連れて帰ってよ!

言いたいことがありすぎて、口をパクパクさせてると、


「冗談、冗談。
ちゃんと連れて帰るよ」


焦る私を見て、おかしくてたまらないって顔してる。


「もしかして降りられないとか?」


そんなに嬉しそうに聞かれたら、

意地でも飛び降りて見せたいところだけど、

浴衣に下駄じゃ、さすがに無理っぽい。


「ほら、飛んでみ?」


って、無邪気に下で両手を広げられてもねぇ。


「そんなの無理!絶対無理だって」


「ダイジョブだって。
絶対キャッチするから!
オレ、小学校ん時、キーパーやらされてたし。
な!」


「何それ?ボールと一緒にしないでよ!」


「じゃあ、好きにすれば?オレ、先帰る」

ハンドルに手をかけようとする背中に、


「鬼!悪魔!帰るなー!」


叫んでみても、

圧倒的にこっちが不利だし。

だからって、そんなのできるわけない。

だいたい恥ずかしいよー。

完全、子供扱いじゃん。
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