社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
衣川課長の部下から彼女となって二ヶ月。第二営業部での仕事もやっと理解し始めたころ。
終業時間の十七時半を十分ほど過ぎて、私のスマホが震えた。相手は衣川課長からだ。
ロッカールームにいた私は、廊下に出て電話に応答する。
「もしもし」
『あぁ、俺だけど』
この『俺だけど』っていうフレーズを聞くと自分が彼にとっての特別な存在になれた気がして嬉しい。けれど、今日は少しトーンが低い気がする。
『悪い。急に接待が入った。今日の予定はまた別の日にしてほしい』
「……そうですか」
がっくりと肩を落としたのが、声色にも現れていたようで衣川課長が電話口で『ごめん』と謝ってくれた。
彼の落ち込んだ声を聞いて、私と同じ気持ちなのだということがわかる。残念だがこんな些細なことで、彼をこまらせてはいけないとを思い、足元をみていた視線をあげて努めて明るい声を上げた。
「仕事なんだから仕方ありません」
『終わったら、連絡する』
そう告げると、少し間が開いて電話が切れた。彼の“名残惜しい”という意図が感じられてそれだけでも沈んだ心が救われた気がする。
しかし、残念な気持ちは簡単にはぬぐいきれない。なぜなら付き合って初めて彼の部屋へと伺うことになっていたからだ。
私の送別会のあの日。
みんなの目を盗んで、会場だったビルからは抜け出せた。しっかりと手を握られて、タクシーを拾おうとしたそのとき……バッグの中で私の携帯が震えた。その電話の相手が母からだと気が付いた衣川課長は、タクシーに乗り込むと彼の自宅の住所ではなく、私の自宅の住所を告げた。