社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

衣川課長だと思って顔を見たけれど、そこにいたのはタイ料理屋さんのアルバイトの男性だった。

「あれ、あの?」

「よかった。掴まって」

にっこりと笑った彼の息が上がっていることから、急いで私を追いかけて来たことがわかった。

そして私の目の前に紙袋を差し出した。

「これって、あなたのですよね」

それは、雑貨屋さんで買ったマグカップの入った紙袋だった。あまりの嬉しさに店を飛び出した私は、うっかり置き忘れてしまったみたいだ。今、言われるまで全く気が付かなかった。

「す、すみません。しかもわざわざ届けてもらって」

彼から雑貨屋の紙袋を受け取りながら何度も頭を下げる私に、アルバイトの彼は苦笑しながら「いいですよ」と言ってくれた。

顔をあげるときに、勢いよくあげすぎて思わず体がふらつく。

「あ、危ない」

彼に突っ込んでいきそうになった私を支えてくれた。

もう……どうしてこんな失敗ばっかりしちゃうんだろう。慌てて彼から距離を取ろうと体制を立て直した私だったけれど、今度は反対方向に体が傾いた。

強い力で誰かが私の腕を引いた。振り向くとそこには眉間に皺を寄せて、アルバイトの彼を睨む衣川課長の姿があった。

「あ、早かったんですね」

思わず笑顔になった私とは裏腹に、衣川課長はまだ鷹のようにするどい視線を彼に向けていた。

「こいつは俺と待ち合わせしている。なにか用ですか?」

私を庇うように前に立ち、そう言い放った。

もしかして、なにか勘違いしてる?
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