社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「火のないところにも煙が立つのが、社内の噂話よ」
さも、そんなこと知らなかったのかと半ば呆れたように言われて、汐里さんと顔を見合わせた。
「私もその噂を耳にしたことがあるの。まぁ、その噂が立った理由くらいは予想できるけどね。衣川くんって、ご覧のとおりの態度でしょ? だから他の同期の女子社員なんか怖がって話をしなかったわけ。でも、私は近い部署に配属された同期だから、色々と相談してたの。でも、本当にそれだけ。ふたりきりでお酒を飲んだこともないわ」
「そうだったんですか……私、勝手に嫉妬してバカみたいでした」
「もしかして、それでオーバーワーク気味だったの? それまでだって、色んな細かい仕事、合田さんに押しつけられてたでしょ?」
合田さんと同じ課の汐里さんは、日ごろから彼女の行動が気にいらないようであまりよく思っていない。
「それは、私も仕事を早く覚えたかったから。でも、貴和子さんみたいになりたいって思ったのは確かです。衣川課長には貴和子さんみたいにデキる女の人が似合うと思うから」
「それで、健気な努力をしていたと……」
「もちろん、それだけのためじゃないですよ」
私は前のめりになって、慌てて否定した。
「わかってるわよ。営業企画部にまで河原さんの頑張りは伝わってきてるから。そんな邪な気持ちだけじゃ、人間そこまで頑張れないもの」
「じゃあ、どうして朔ちゃん振られちゃったの? ……あっ、ごめん」
はっとした表情で口に手を当てる汐里さんを、貴和子さんが睨んでいる。
「いいんですよ。事実ですから」
肩を落としている汐里さんに、苦笑いを返す。