社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「おいしい……」
思わず顔がほころんだ。
「そう、よかったわね。すぐには無理かもしれないけど、いつもその顔をしていられるように早くなるといいわね」
「はい。ありがとうございます」
私は、もうひとつチョコをほおばった。
「貴和子さんも一緒にどうですか?」
「ううん。それは河原さんのだから、あなたが全部食べて」
いやに“河原さんの”って言うのを強調するな……。でも、わざわざ貴和子さんが買ってきてくれたんだ。ありがたく食べて、気持ちを切り替えて頑張らなきゃ。
「いつも気にかけてもらってすみません」
「いいのよ。それに、あなたを心配してるのは私だけじゃなからね。仕事戻るわ」
チラッと腕時計を見て、貴和子さんが踵を返した。
「ありがとうございます!」
私はもう一度、大きな声でお礼を言うと気合を入れ直し、俯きがちで丸くなった背中をピンッと伸ばした。
いつまでも、落ち込んでいても仕方がない。ちゃんと反省して次に生かさないと。
私は急いでデスクに戻ると、午後からの仕事に取り掛かった。
「河原さん、経費精算やりかたってこれで合ってる?」
「はい。あっ……でも前日から前泊でしたよね。移動時間はっと……もしかして、もう出ちゃいますか?」
成瀬さんはチラチラと時計を気にしている。
「実はそうなんだけど、その旅費の精算も今日までなんだ」
「わかりました。チェックして私の方で出しておきますから行ってください。遅れると大変ですから」
他の部署では事務職が一手に経費の精算をするところもあるが、うちの課に限っては衣川課長の方針で各々が処理をすることになっている。
だが、今回は時間がないので私が引き受けることにした。