社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

「じゃあ、頼んだ! この埋め合わせは必ずするから」

成瀬さんは急いだ様子で、デスクの上の資料を手に椅子にかけてあった上着を羽織る。しかし、私たちのやり取りを見ていた衣川課長が成瀬さんを睨む。

「本来、それはお前の仕事だ。次はないと思えよ」

パソコンから一切視線をそらさない衣川課長だったけど、冷たい声が成瀬さんに釘をさすのには十分だったらしく「はいっ! 以後気御付けます」と小学生のような大きな声で返事をして、客先へと出かけて行った。

デスクに残っているのは、衣川課長と私のふたり。ぽそりと本当に小さな声で衣川課長がつぶやいた。

「やっと、元気になったみたいだな」

声は小さかったけれど、顔がこっちに向いていて、しっかりと目が合う。

「はい。ご心配おかけしました」

私はしっかりと口角をあげて笑った。部下として心配して声をかけてくれた上司にきちんと応えるように。

——頑張ろう。この人の元で働けることに感謝して頑張ろう。改めてそう思えた瞬間だった。
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