社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
エレベーターの中に設置してある鏡をじっと見つめた。
そこにはすこし疲れた顔の自分の姿があった。
眉の上で切りそろえている前髪を、手櫛で直した。学生時代からずっとこの前髪だからすでにトレードマーク化しているような気がする。
疲れたように見えたのは、お化粧がほとんど落ちてしまっているからだ。
こうみると、本当に童顔だ。
「目が大きくてうらやましー」なんていわれるけれど、小学生のときのアダ名が“宇宙人”だったことから、自分ではそんなに気に入っていない。
鼻は高くもなく低くもなく普通だし、唇だってもうすこし厚ければもっとセクシーだったのに。
こんな眉間に皺をよせているのが、そもそも問題なんだけど。
そのとき成瀬の言った「愛想ないな」という言葉が思い出された。
本当に無神経なんだから!
単細胞でムカつく。ちょっとは私の複雑な心境を慮ることができないわけ? いつもつっかかってきて、嫌なヤツ。
完全に八つ当たりだ。だけど今アイツの契約をとれた自慢話を聞いてしまったら、もっと落ち込みそうだ。
このままじゃ私、アイツにおいていかれちゃうな。
「はぁ……」
今日一番の大きなため息をついた。
こんなに文句ばかりが口をついて出てくるような奴なのに——成瀬という男は、私が入社以来ずっと片思いしている相手なのだ。