社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
タクシーがスピードを緩めて、成瀬のアパートの前に止まった。
成瀬が支払いを済ませると、タクシーのドアが開いた。成瀬に続いて私も降りる。
タクシーが走り去り、成瀬が私の手を引いて歩き出そうとしたけれど私の足は動かない。
ここに来るのは、二度目だ。一度目は……。
成瀬の部屋の扉から出てきた女性の姿が脳内に浮かび、私の足を止めてしまったのだ。
「おい、どうした?」
下を向いて立ちどまったままの、私の顔を成瀬が覗きこんだ。ここまで強引に私をつれてきたのに、私の顔を覗きこむその瞳には心配の色が窺えた。
「私……やっぱり、成瀬の部屋には行けないよ」
成瀬の視線から目をそらせて、小さな声で伝えた。
私をここに連れて来たということは、今日あの部屋に彼女がいるはずはない。そうはわかっていても、いつも彼女と過ごしている成瀬の部屋に、ずけずけと踏み込む勇気はない。
「どうして?」
責めるでもなく、穏やかな口調で聞かれた。いつもならたたみかけるように会話をするのに、今日に限って成瀬の口数は少ない……それは私も一緒だった。
なにも言わない私に、成瀬が口をひらいた。
「理由を言ってもらわないとわからないだろう? いつもはバンバン話するくせに、お前らしくない」
——私らしくない。
確かにそうだ。成瀬の前ではいつも「私らしく」いられない。
意地を張って全然素直になれない。