社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
翌日私はいつもの時間に出社した。営業課のあるフロアにエレベーターが止まる。扉が開き外に出るとそこに成瀬が立っていた。

まさか朝一番で会うなんてこと思ってもみなかったから、驚いて思わず足を止めてしまう。

朝早いフロアには、人がげはなかった。

「おはよう。滝本」

「うん、おはよう」

なんとなくぎこちない。私は肩にかけていたバッグの紐をギュッと握って金曜のことを確かめようと口を開きかけた。

しかし、その前に先に成瀬が話し始めた。

「金曜はなんか面倒かけたみたいで悪かったな」

バツが悪いのか私の顔を見ずに無造作に髪を掻き上げた。

「もう、本当に大変だったんだからね! お詫びが遅いんじゃない?」

目が覚めたら連絡がくるものだと思っていた。でも私のところにはメールの一通も来ていない。

「いや、電話とかよりもちゃんと会って謝ろうと思って。反省している。あっグレープフルーツジュースありがとうな。二日酔いにけっこう効くんだな。覚えておくわ」

「あっそ」

本当は聞きたいことがあるけれど、今聞いてしまうと仕事に支障が出るかもしれない。そんな言い訳をして、意気地のない私は彼を避けるようにして通り過ぎようとした。

「ちょっと待てよ」

腕を掴まれてよろけた私を成瀬が支えた。不意に距離が近くなって金曜日倒れたときに抱きしめられたことを思い出した。
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