社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「あいつ……なんか言ってたか?」

「あいつって、部屋にいた女性のこと?」

「お前のこと俺の女だって誤解したみたいでさ、なんか目が覚めてから色々聞かれて大変だったんだ。あいつちょっと強引なところあるからさ、お前になにかしたかもって思って」

それは彼女が私を浮気相手だと誤解して、修羅場になったということだろう。だったらメールさえ打てなかったというのも頷ける。

私は黙りこんだまま成瀬の話を聞く。

「お前に、なにか変なこと言ってないなら別にそれでかわまないんだけど」

「大丈夫……私にはすごく丁寧だったよ」

「いや〜まいったよな。おい……ちょっと待てってば」

再び歩き出した私に並んで、成瀬も歩き出した。

もう……ついてこないでほしい。これ以上彼女の話はききたくないのに。

さっきまで——成瀬の顔を見るまで、自分からちゃんと彼女の話を聞こうと思っていたなのに先に向うから話を切りだされるとは思っていなかった。

心の準備ができていなかったせいか、私の覚悟がたりなかったせいか、思っていたよりもダメージが大きい。

それなのに隣の成瀬はまだなにかベラベラと話しながら、私についてきている。

いい加減にしてほしい。仕事が始まるまでのすこしの間だけでもひとりになりたいのに。

「どこまでついてくるつもり?」

私は女子トイレの前で足を止め、隣の成瀬を睨みつけた。

「え……あっ、いや」

足を止めた成瀬をおいて、私はさっさと女子トイレへと駆け込んだ。そして誰もいないことを確認して一番奥の個室通称“ロバ耳ルーム”に閉じこもった。
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