社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「バカ! バカ!」

扉に額をつけてブツブツつぶやいた。じんわりと涙が滲みそうになったけれど、今から仕事だ耐えなくてはならない。

『あいつちょっと強引なところがあるからさ』

そんな風に彼女のことを言ったことから、どれほど関係が深いのかがわかる。数ヶ月やそこらの相手にはこんな言い方はしないだろう。

もし仮になにか彼女が失礼なことをされていたとしても、成瀬に代わりに謝られる方がつらい。まるでふたりの深い関係をまざまざと見せつけられているような気がする。

「バカなのは私だ……」

期待しないように言い聞かせてきたけれど、やっぱりつらい。

私は壁にもたれたままゆっくりと大きく息をした。そして天井を見上げる。

これまでいろいろあっても、諦められずにいた。

決定的にフラれるまでは好きでいるんだろうなぁ……なんて漠然と思っていたけれど、やっぱり彼女を目の当たりにするとそれと同じくらいの衝撃がある。

成瀬の幸せを壊してまで自分の思いを遂げようと思わない。それに彼女がいるのに私の思いに応えるようなことは成瀬は決してないだろう。私の好きになった男はそういう男じゃない。
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