社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「今回はご迷惑をおかけしました。引き継ぎについては明日以降きちんといたしますので、今日はもう失礼してもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。好きにすればいい」

急に話し始めた私の勢いにおされて、佐山課長もとりあえず頷いているといった様子だ。

「ありがとうございます」

私は頭を下げると素早く自分のデスクに戻り、パソコンの電源を落とした。その間も周囲からの好奇の視線がチクチクと刺さっているのを感じる。

こんなに電源切れるの、時間かかったっけ?

私はじれったい思いを感じながら、バッグをつかんだ。そしてパソコンの画面が真っ黒になった瞬間顔を上げて、いつもよりも大きい声を出した。

「では、お先に失礼します!」

いつもどおり……に見えるようにして私はフロアを出た。

よくやった、私。

なんとか泣かずにあの場から出たことをとりあえず褒めた。

仕事をする上で決めていることは“人前では泣かない”ということ。それを守れた自分は偉いと思う。

誰とも目を合さないように、下を向いたまま自分の足元だけを見て歩いた。

目指すは“ロバミ耳ルーム”だったのだけど、トイレに足を踏み入れようとすると中から女子社員の声が響いてきた。

私は中にはいらずに足を止めた。今にも涙が溢れ出しそうなほど目の奥が熱くなってきている。私はエレベーターに乗り込むと、もうひとつの私の避難場所である屋上を目指した。

必死で耐えて、屋上の扉をひらく。
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